AIで経費精算や請求書処理を自動化する方法【スプレッドシート連携】
経費精算に潜む“ムダ時間”
経費精算は多くの企業で毎月繰り返される定型業務です。領収書を集め、日付や金額を手入力し、上司に承認を依頼する――この作業のために毎月長時間を費やしている担当者は少なくありません。特に出張や営業が多い企業では、件数が膨大になり、締め日の前後にはデータ入力や仕訳の確認に追われるケースが目立ちます。最近はインボイス制度や電子帳簿保存法への対応も重なり、紙の請求書を電子化するニーズが急速に高まっています。AIとクラウドサービスを活用すれば、こうした煩雑な作業を大幅に効率化できます。
自動化の全体像
経費精算や請求書処理をAIで自動化する一連の流れは次のとおりです。
- 領収書や請求書の画像/PDFをGoogleドライブにアップロードする。スマートフォンで撮影して直接アップロードする運用にすれば、社員の手間を減らせます。
- Google Apps Scriptがドライブ内の新規ファイルを検知し、OCRでテキスト化。Google DriveのOCR機能やGoogle Cloud Vision API、Document AIなどを利用して、画像から文字を読み取ります。AI‐OCRを使えば、手書き文字や複雑なレイアウトにも対応可能です。
- OpenAIやGeminiなどの言語モデルにテキストを送信し、必要な項目を抽出。AIに「日付」「金額」「用途」「支払先」などの項目をJSON形式で返すように指示します。文脈を理解しにくい部分は補正してくれるため、OCRで拾えなかった情報も補完できます。
- Googleスプレッドシートに自動登録。Apps Scriptでスプレッドシートにアクセスし、抽出したデータを新しい行として追加します。同時に領収書の画像リンクやアップロードした担当者のメールアドレスも記録しておくと、後から確認しやすくなります。
- 月次レポートや仕訳データを自動生成。集計関数やピボットテーブルを使えば、月ごとの経費額や費目別の費用を即座に把握できます。外部の会計ソフトに連携すれば、経理処理まで一気通貫で自動化できます。
この仕組みを導入すると、担当者が行っていた「読み取る→入力する→確認する」という作業がシステムに置き換わり、経費精算の時間を大幅に短縮できます。以下では各ステップを詳しく解説します。
領収書を読み取る:OCRとAI‐OCRの選び方
紙の領収書をデータ化するには、文字を読み取る技術が欠かせません。従来のOCRは印字された文字のみに対応し、手書き文字や複雑なレイアウトには不向きでした。最近はAI‐OCRが普及し、文字だけでなく文脈やレイアウトを理解しながら情報を抽出できるようになっています。AI‐OCRを使うメリットは次のとおりです。
- 高精度の読み取り:手書き文字や曲がったレシートでも高精度で認識できます。店舗名やロゴを画像から判断する仕組みもあり、情報の欠落が少なくなります。
- 項目分類の自動化:単にテキストを抽出するだけでなく、「交通費」「交際費」「通信費」などの費目を推定してくれる機能を持つサービスもあります。
- 法令対応をサポート:電子帳簿保存法やインボイス制度に対応したデータ形式で保存できるツールが増えています。
Google DriveのOCR機能やCloud Vision APIは手軽に利用でき、APIを通じてGASやPythonから呼び出せます。より高度な読み取りが必要なら、Google Cloud Document AIの「Invoice Parser」や「Expense Parser」といった専用プロセッサを使う方法もあります。これらは請求書や領収書のレイアウトを理解し、日付や金額、仕入先、税率などを自動で抽出します。
AIで必要な項目を抽出する
OCRで得たテキストは行ごとに区切られているだけで、そのままでは情報を拾いにくいことがあります。そこで、大規模言語モデル(LLM)にテキストを送信し、必要な項目を抽出します。ChatGPTやGeminiなどのモデルに対して、以下のようなプロンプトを与えると良い結果が得られます。
あなたは経費精算アシスタントです。以下の領収書テキストから、日付、支払先、用途、金額を抽出し、次の形式でJSONとして返してください。
{ "日付": "", "支払先": "", "用途": "", "金額": "" }
---
ここにOCRで取得したテキストを貼り付ける
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AIは文章の前後関係を考慮して、日付や金額を正しい形式に整えてくれます。例えば「2025年8月20日」や「8/20」といった記載も西暦表記に統一されます。また、複数の品目がある場合は配列にして返すよう指示することも可能です。
抽出結果の例:
{
"日付": "2025-08-20",
"支払先": "○○タクシー",
"用途": "出張交通費",
"金額": 4800
}
LLMを使う際は、次の点に注意してください。
- プロンプトに必須項目を明示する:抽出したい項目を明確に指定し、余計な情報を出力しないようにします。
- 一度のトークン数に注意:長いテキストはトークン上限を超える恐れがあります。長い領収書や複数ページの請求書は、文書を分割して順番に処理し、最後にまとめると良いでしょう。
- ハルシネーション対策:AIが事実にない情報を生成しないよう、「記載されていない項目は空白にする」「推定を行わない」などの指示を盛り込みます。
Apps Scriptで自動登録を実現
Google Apps Script(GAS)はGoogleドライブやスプレッドシートを操作するのに便利なJavaScript環境です。ドライブ内のフォルダに新しいファイルが追加されるとトリガーを発火させ、OCR処理とAI抽出、スプレッドシートへの書き込みまでを自動化できます。
1. フォルダの監視
ドライブAPIで指定フォルダのファイル一覧を取得し、処理済みでないファイルを順番に読み込みます。ファイル検知は時間主導トリガーやカスタムトリガーで数分ごとに実行できます。社員専用の「アップロード」フォルダを作っておき、そこに領収書や請求書を入れてもらう運用にするとわかりやすいでしょう。
2. OCR処理
画像やPDFのBlobデータを取得し、Google Apps ScriptのAdvanced Drive ServiceやGoogle Cloud Vision APIを呼び出します。Drive Files.insertメソッドを使ってOCRオプションを付けてアップロードし、テキストを含むGoogleドキュメントを自動生成する方法もあります。Document Appで開いたドキュメントから本文を取得すればOCR結果のテキストが得られます。
3. AI抽出
OCRテキストを関数に渡し、前述のプロンプトでOpenAI APIを呼び出します。戻り値のJSONをパースしてスプレッドシートに書き込めるオブジェクトに整形します。
4. スプレッドシートへの書き込み
抽出した日付・支払先・用途・金額のほか、担当者のメールアドレスや元ファイルのURLも同時に登録します。sheet.appendRow()
を使えば最後の行に新しいレコードを追加できます。登録後、処理済みファイルを別のフォルダに移動するなどして再処理を防ぐとよいでしょう。
Apps Scriptの自動化は無料で使え、処理の自由度が高いのが特徴です。さらに高度な機能が必要なら、2025年に発表されたGoogle Workspace Flowsを検討してもよいでしょう。Flowsはノーコードでワークフローを構築できるサービスで、Geminiを搭載したカスタムAIエージェント(Gems)と連携し、「経費精算が規定に合致しているか」などの判断も自動化できます。また、適切な承認者へ通知を送る承認フローや、Sheetsのデータから定型レポートを生成する機能も備えており、経費・請求書処理の効率化に役立ちます。
月次レポートと会計ソフト連携
スプレッドシートに蓄積されたデータは、そのまま月次レポートや決算資料の元データとして利用できます。ピボットテーブルやクエリ関数を使えば、以下のような集計がワンクリックで可能です。
- 日付や担当者ごとの経費総額
- 費目別の支出割合(交通費・接待費・通信費など)
- 一定額以上の支払いの抽出
これらの集計結果はGoogleドキュメントやスライドに自動でレポートとしてまとめ、担当者や経営陣にメール送信することも可能です。また、CSV形式でエクスポートしてfreee、弥生会計などの会計ソフトに取り込めば、仕訳データ作成まで自動化できます。RPAツールと連携すれば、経理システムへの入力や振込指示も自動化でき、月次決算の短縮に寄与します。
導入時の注意点と運用のコツ
AIを使った経費精算システムにはメリットが多い一方、導入・運用時に気を付けたいポイントもあります。
- 精度の検証と例外処理:AI‐OCRやLLMの抽出結果は完璧ではありません。読み取りエラーや誤った推定が発生することもあるため、人によるレビュー工程や不一致データをフィードバックする仕組みを設けましょう。
- 入力形式の標準化:領収書に記載するフォーマットや社内ルールを統一することでOCR精度が向上します。手書きや外国語のレシートには注意が必要です。
- 情報漏えい対策:経費データには個人情報や機密情報が含まれることがあります。ファイルのアクセス権限を適切に設定し、AIサービスへの送信時には暗号化通信や個人情報のマスキングを徹底しましょう。
- 法令遵守:電子帳簿保存法やインボイス制度、個人情報保護法などに対応する運用を整備します。領収書や請求書の保存期間や保存形式に関する規定に従い、電子署名付きファイルの保存やタイムスタンプ付与が必要な場合があります。
- 社内教育とフロー設計:新しい運用を浸透させるため、社員向けのマニュアルや説明会を用意しましょう。また、システムがトラブルを検知した場合の対応フローや承認プロセスの設計も重要です。
応用アイデア
AIとスプレッドシートの連携は、単なるデータ入力にとどまりません。以下のような機能を追加することで、経費処理をさらに効率化できます。
- 費目分類と異常検知:抽出した用途から「交通費」「交際費」「通信費」などの費目を自動分類し、上限を超える支出や不正な支払先を検出するといったアラートを実装できます。
- 承認ワークフローの自動化:Google Workspace FlowsやAppSheetを利用すれば、経費申請の承認依頼を適切な上司に自動通知し、承認結果をスプレッドシートに反映するプロセスをノーコードで構築できます。
- チャットボットで経費FAQ対応:社内の経費ルールに関する問い合わせをAIチャットボットが対応する仕組みを整えると、経理担当者の負荷が減ります。
- 定型レポートの生成:毎月の経費総額や費目別グラフを自動生成し、メールやSlackで関係者へ送信するフローを作成できます。
- 会計監査補助:AIが申請内容と社内ポリシーを照らし合わせて、規定に合致しているかをチェックする仕組みを導入すれば、監査業務の効率化につながります。
まとめ
AIとGoogleスプレッドシートを活用すれば、経費精算や請求書処理の多くを自動化できます。OCRやAI‐OCRで領収書を読み取り、ChatGPTやGeminiなどの言語モデルで必要な項目を抽出し、Apps Scriptでスプレッドシートに記録する仕組みを整えることで、手作業にかかる時間を大幅に削減できます。さらに、月次レポートの自動作成や承認フローの自動化、費目分類や不正検知などを組み合わせれば、経理業務全体を効率化できるでしょう。まずは小規模に試験導入し、効果を確認しながら段階的に拡大してみてください。